平凡よりちょい上の高校生活を目指していた平凡な僕が、学校のマドンナに好かれている噂が確信へと変わった瞬間であった。



どう考えても特に取り柄がない僕をどうして彼女が好いてくれていたのかというのを今分析すると、1つ理由が考えられると思った。

自分でも30歳を超えてこれは一つの能力になるのかもしれないと考えだしていることでもあるのだけど、「空気を読んで場を和ます力」が上位5%くらいに入っている気がする。


これは逆を言うと自分が人からどう見られているか気にしすぎて、相手の感情や考え方を読み取ろうとする力が身についてきたのかもしれない。

また、その場その場で発する言葉も、その人に合わせてカスタマイズして、人と場が心地よくなるようすることがたけていると自分では思っている。



自分を好いてくれたのではないかというエピソードが二つあるので紹介しよう。

一つ目は、授業中になる彼女のお腹の音を自分の席でかき消したことである。

冗談じゃないよ!

自分も過敏性腸症候群かと疑ったくらい、僕自身授業中によくお腹が鳴ることがあった。(周りの人が気づいていたのかは分からない。)

ジュース飲みまくっていたのと食事も育ち盛りで炭水化物が多く、またよく間食もしていたのでお腹がごろごろしていたのかな。

お昼前にお腹が減って授業中のシーンとしたときに「ぐー」と鳴るのが断続的に止まらなかったときは、目の前の消しゴム食ってやろうか悩んだくらいである。

そんな、お腹ゴロりんの僕は逆に人のお腹がなったときの行動にすごく敏感だった。

当時幸運の女神が微笑んで、隣の席にいた彼女が授業中にお腹がなったのに一番に気づいたのは僕だろう。



マドンナのお腹が鳴る音をクラスに響かせてはいけない。

僕のミッションインポッシブルが始まった。

もちろん常駐だし直視はできないが、隣にいるマドンナがなんとなくもじもじして授業に集中できてなさそうなのはわかった。

彼女が本をめくろうとする回数と音が横で多く、大きくなっているのを聞きながら僕は確信した。

第二波が来る。

自分もよくお腹の音が響きそうな前に、カバンの中をごそごそしたり教科書やノートをぺらぺらしてかき消そうとしたことが多々ある。

彼女が本をめくる音でごまかそうとしていた2回目のお腹が鳴るのを察知して、僕は大きな咳をしてその音をかき消した。

授業が終わるまではまだ15分ある。

長期戦を覚悟した。

あと数回彼女の動きを察知して僕はその度に咳でかき消した。

お腹の音と咳のデュエットである。

ただ、その数回で収まったようだ、さすがにそこはマドンナ。

この気遣いちょっとキモイね笑、しかもここまですべて独りよがりの妄想の可能性もある。時効だ時効。



さて、二つ目の考えられる理由はクラスで派閥に入らずに、かといって誰とでも仲良くするようにして、クラスで目立たなかった子ともよく話していたことかな。

例えば部活が同じこがクラスにいたら、その友達とつるむことが多いと思うけど、残念ながら自分のクラスには同じ部活の人がいなかった。

でも野球は野球、帰宅は帰宅ですでにグループ化されているし、そこに深く入るのも難しだろうし、正直面倒くさかったから自分から積極的に都度話しかけつつも、ずっと一つのグループとは一緒にいないようにしていた。

ある日クラスの席替えで、あまり言葉を発さずにいつも一人でいるこが後ろの席になった。

休み時間はトイレや廊下に立つ時もあったが、大体は面倒なので席の前後左右のこと話すのが多くて、休み時間中にその子とも話しかけていたのだが、その子が結構面白い話をしてくれる。



陰キャ系の人は2種類いると思うのだが、本当に自分の世界に浸っていて人と接するのが嫌、または、苦手という人と自分から話しかけるのだけが嫌で来るものは拒まずという人で、彼は後者だったのが話していてもわかった。

後者が多数だよね。

女の子にはがしがし話しかけに行けない僕も、男であれば本当に誰とでも仲良くなれたし、人と話すのって楽しいなと心から思っていた。

その男の子とマドンナは実は同じ部活で、彼のキャラもよく知っていて、その彼と楽しそうに話している自分が好印象に映ったのかもしれない。



そんなこんな理由で確信を得た僕はついに「告白」することにした。

少し小雨の朝だったかな。

彼女が朝早起きなのを知ってたので、ちょっとだけ早く来てもらって誰もいないところで告白しようと思った。

根が陰キャだから周りの人に見られるのが嫌だった。

ここからは本当にうる覚えなんだけど、朝最寄りの駅で待ち合わせて、学校まで15分くらい一緒に歩いていつ言おうかとタイミングをずっと見計らっていたような気がする。

学校について、まだ教室空いてないくらい早朝だったかな?本当に誰もいない。

雨だしほかに場所がなく部室に彼女を連れて少したわいもない話をしていたと思う。

何て言っただろうか。覚えてないけど、「もしよかったら僕と付き合ってくれませんか?」とかそんな感じだったかな。

人生初めての告白なのに・・・

勝ち戦なはずだが、緊張していたのだろう。だってどんでん返しはストーリーに付き物でしょ。

彼女は何も言わなかったか、うんと一言だけ頷いたかでOKをもらえた。



そこから自分の人生はものすごく楽しくなることを確信した。

これは広まればとんでもないニュースになるぞということもわかっていた。

なんで僕なんだろうとみんな思うだろうし、あいつとは釣り合わないと思われるのが嫌だった。

だから、しばらくこのことは二人の秘密にしようということを部室で約束した。

幸せな気分で部室を出ると、早朝から練習熱心な野球部で同じクラスだったやつと二人で部室から出た瞬間ばったり会った。

このシーンは衝撃過ぎて今でも鮮明に覚えている笑

「あっ」とだけ言った。「え?何してんの?」と言われた。

それでもやばいばれたとかではなくて、幸せすぎてにやにやしていたのだと思う。




そこから全国にニュースになるまでには1日もかからなかった。

各方面からの祝福の電報を頂き、多幸感で満ち溢れていた。

その出来事は僕の学校でのステータスをいきなりぐんと上げた。

名前も知らない人から話しかけられるようになり、また、男子からの羨望のまなざしが熱かった。

お前は本当によくやったとたたえてくれる戦友もいれば、どうやって落としたのかとしきりに聞いてくる盟友もいた。

そういう意味でもいろいろものすごく気持ちよかったし、自分の人生本当に波に乗っていると思った。

学校が異なる旧友からもメールが来て、部活の試合の時には他校の選手からも学校のマドンナをおとしたエースと言われるようになった。

ある日、母からも「あんたマドンナと付き合ってるらしいな」と言われた。なぜ知ってる。



そこから一年間は本当にいろんなことがあって楽しかったな。

今思い出すだけでも「青春」だったと思う。

高校生のこういう時間は本当にかけがえのない思い出で、年をとればとるほどにあの頃の美化されたドラマとなっていく。

こうやって思い出しながら書いているときもやっぱり幸せな気分にある。

ただ、結局一年で別れてしまった。

原因は僕にあって、彼女に甘えすぎたことと舞い上がっていたことである。そして人生で初めて振られた。



そこからの僕は本当に女々しかった。

別れたのが信じられなくて、昨日まで自分のものだった高価な宝物をいきなりなくしてしまった人間は必死にそれを取り戻そうとする。

もう壊れて元に戻らなくなったことも理解できずに・・・

別れ話をされることもなんとなく気づいていたので必死に言葉を考えて当日臨んだけど、全くダメで今思い出すと恥ずかしいくらいもう大泣きした。

別れてからもちょくちょくメールしてて、いったん落ち着いたけど、大学になってからも最初またメールしていたと思う。

1年近くは引きずっていて、また、いつかは元に戻れるような美談を信じていた。



覆水盆に返らず。

彼女は容姿端麗成績優秀で志望校に見事合格し、僕は第一志望に不合格。

別れたてからはMr.ChildrenのHeavenly Kissを鬼リピートして感慨にふけっていた。

誰より愛しく、誰より憎いという言葉が本当にぴったりで、めちゃくちゃ好きすぎてもうこっちを振り向いてくれないのがとても憎らしかった。

なんかこう彼女が生きているんだけども僕にとっては死んでしまったような、もう会えない絶望を感じていた。

ふと自分が振った元カノのことを思い出して、こんなにつらい思いをさせていたんだなと改めて謝った記憶がある。

彼女にとっては今更なんやんねんこいつだろうが、当時は冷静な判断ができなくなっていた。

誰かに話を聞いてほしいというのもあったかな。

でも、やっぱり時間というのは何でも解決してくれるのね。

今ではいい思い出よ。



30歳になった今でも彼女に感心していることが2つある。

1つ目は、ある日ご飯を一緒に食べに行くと、彼女に箸の持ち方を指導された。

恥ずかしいことだが、ずっと変な持ち方だと思っていたらしい。

「将来のお食事会とかのために直しといたほうがいいよ。」と優しく言って、指摘してくれたことに本当に感謝している。

あと、ファミレスとかで注文するときは無言でメニューを指さすのではなくて、ちゃんと「~を下さい。」と丁寧に言ったほうがいいよとも教えてくれた。

僕も無知というかダメな男ですよね。

自分のマナーのなさにも嫌がることなく、1つ1つ丁寧に教えて改善してくれた。

また、もう一つ感心していることは彼女が当時くれたプレゼントが今も現役であることである。

誕生日かクリスマスか忘れたけど、茶色い革のベルトを僕にくれた。

そこから15年くらい経過するけど、そのあとに自分で買ったベルトははげたりして買っては捨ててということを何回か繰り返しているが、彼女からもらったそのベルトだけはなかなかぼろくならない。

むしろ、年々味がでてきているような気さえする。

長く使えるようなプレゼントをチョイスするセンスの良さに感心させられるばかりである。



こんな感じで自分の高校生活の青春を振り返ってみたけど、映画一本みるくらいなんか楽しかった。

当時は自分なりに考えてかっこつけて失敗して後悔してまた立ち直ってと必死に生きていた。

エンディングは辛かったけど、その上に今の自分が成り立っているし、当時は幸せで酸いも甘いも学んだことがたくさんあった。

学生時代に恋をするとおっさんなっても楽しめるから皆もっと告白しよう。

20代の社会人でもまだ間に合うよ。

30代のよなよな飲むお酒のあてにはもってこいよ。

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